逆走式・静岡ロケ報告(9)掛川の加茂荘にリターン

10月16日(土)。翌17日は今回の静岡ロケで初めての撮休で、10月3日のクランクインから2週間、1日の休みもなく撮影に明け暮れた。
ようやく撮休となる前日、静岡県東部の函南(熱海と沼津の中間)の宿舎から、静岡県西部の掛川市に遠征する。
掛川市の加茂荘は、祖母お運の住む福島県の安積・開成山の別荘と設定された、この映画のメイン・ロケセット。ロケ前半に5日ほど撮影しているが、この日は主に郡山駅から開拓地の開成山までやってくる人力車のシーンが撮られた。

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人力車を引いてくれるのは、掛川城の前で実際に営業している本物の車夫さん。人力車持参で協力してくれた。感謝。
問題は開拓地につながる「荒野」(台本上の表記)で、どこに大正末期の荒野らしきものが存在するか、県内の各フィルムコミッションが捜してくれた。しかし、実際に撮影する機材の運搬などを考えると、とんでもない奥地に入ることもできない。
最終的に、加茂荘の前に広がる加茂花菖蒲園の山側を使って撮影することに落ち着いた。

大杉漣さん演じる百合子の夫、荒木茂が早朝人力車でやってくるシーン。走る人力車を、先行する小型トラックの上から撮影するのだが、人力車のスピードと撮影車のスピードを合わせなければならない。
何度もテストを重ねて、息を合わせる。へばる様子を見せない車夫さんは、まさしくプロだった。

荒木はなぜか学習院大学教授の制服を着て、百合子と芳子がいる祖母の家に早朝乗り込んで来た。彼にとって最後の勝負だったのだろう。ここから緊迫のクライマックスが始まる。
百合子の小説「伸子」では喜怒哀楽の乏しい陰々滅々の夫として描かれ、後年、芳子には男失格と烙印を押された荒木だが、そこにはやはり「恋する二人」のバイアスがかかっている。実際には、それだけの人物ではなかったようだ。
その辺りの明暗を、大杉漣さんが生き生きと演じている。

人力車で帰る芳子を、百合子と祖母が見送る。祖母役の大方斐紗子さんは天才的な舞台女優で、浜野組では吉行和子さんと共に毎回出演して頂いている。『百合祭』の、奇声を発する最高齢のお婆さん役が目に焼き付いている人も多いだろう。
大方さん、実は福島市の出身で、今回は古い方言の面でもご指導頂いた。NHKの連続ドラマの方言指導で、賞ももらっている本格派なのだ。

芳子に会いたい一心で百合子が上京した夜、行き違いで開成山にやって来た荒木茂。別居したいという百合子からの手紙を受け取り、驚いて駆けつけたのだ。
ここで初めて、百合子と芳子のただならぬ関係を知る。

初めて芳子が開成山にやって来た日。京都生まれで、東京に住んでいるシティ派の芳子には面食らうような開拓地だ。不安を覚える。
実際には大風、大雨で、百合子の「あなたはいつも嵐と共に現れるのね」(大意)という名台詞もあるのだが、さすがに夜間オープンの、走る人力車に大雨を降らせたり、突風を吹かせるのは無理だった。

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フィルムサポート島田の清水さんが手配してくれた高所作業車で、人力車が走ってくる野道と周辺の山裾を照明する。
左端が機材車。右端に小さく見えるのがカメラや監督を乗せた撮影車で、その後ろを人力車が走る。浜野組史上、最大規模と思われるが、すべて加茂花菖蒲園の全面的なご協力のおかげです。
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