逆走式・静岡ロケ報告(8)旧マッケンジー住宅にて

10月18日(月)は静岡市の海岸近く、駿河区高松というところにある「旧マッケンジー住宅」で終日撮影。
戦前の洋館で、今回はニューヨーク時代の百合子と荒木の回想、および荒木が女子学習院で授業をしているシーンが撮られた。
この建物は国登録有形文化財で、撮影にこぎ着けるまでけっこう紆余曲折があった。管理する市の文化財課は、当初難色を示し、映画のロケを担当してくれたシティプロモーション課が懸命に調整してくれた。
自分たちのことながら、撮影隊というのも無理難題を言うので、市役所の職員諸氏も面食らったことだろう。お世話になりました。

ニューヨークで百合子と結婚した夫、荒木茂役の大杉漣さんが、女子学習院で古代ペルシア文化の授業をするシーン。
大正時代の衣装を身に着けた女子エキストラの皆さんが、緊張して机に向かっている。その前で、大杉さん、軽妙なジョークで彼女たちをリラックスさせる一方、咳き込んで血痰を吐くというシリアスなシーンを見事に演じた。
荒木は、実際には女子学習院で英語を教えていたという。学習院大学には荒木が教授として在籍した当時の資料が残っていて、同大学には制服の考証や門の追撮などでも、たいへんお世話になった。

エキストラの皆さんと大杉さんの記念写真。エキストラを集めてくれたのは、フィルムサポート島田の清水唯史さん。清水さんには静岡県西部の島田市はじめ、掛川市浜松市など、地元に近いエリアの撮影だけでなく、静岡ロケ全般にわたって、もの凄くお世話になった。
また、この日は石垣詩野さんを代表とする「支援する会・静岡」の皆さんが、お昼の炊き出しを行ってくれた。しかし、有形文化財の旧マッケンジー住宅では、煮炊きはもちろん食べることもできない。敷地外の駐車場で、とても美味しいお米を炊いて握ったお握りや鍋物が振る舞われた。

旧マッケンジー住宅の骨董室を、荒木の研究室に見立て、孤独な荒木の呟きを撮影する。静岡市立中央図書館から大量の古い洋書を借り出して、セッティングした。これも市のシティプロモーション課の紹介によるもの。
弱ったのは、荒木の背後の棚の鍵が3個紛失されていて、そのなかを飾るためには専門の鍵屋さんを呼ばなければならなかったこと。ひとつ開ける(鍵をカッターで切る)のに八千数百円かかかるうえ、市の文化財課の要望で新しい鍵を付けることになり、少ない予算のなかで失費した。
よほど鍵屋さんにタイアップを申し入れようかと思ったが、あまりにもケチくさいので断念。

百合子と荒木の結婚写真を再現。二人の回想は、フィルムとスチル写真で撮られたが、スチルの撮影と現像を、掛川市在住のカメラマン、小川博彦さんが担当してくれた。(彼は「支援する会・静岡」が製作するポスターの撮影も担当)
実はこの日が、大杉漣さんのオールアップの日。日本でもっとも忙しい役者さんだが、島田市大井川鐵道掛川市の加茂荘、熱海市の起雲閣や西紅亭など、静岡県内各地に来て頂いた。
関係者やエキストラの皆さんにも気さくに声をかけ(スタッフには何度にもわたる差し入れ!)感激している人たちも多かった。静岡県内の大杉漣ファンは急増したのではないだろうか。