逆走式・静岡ロケ報告(6)沼津倶楽部にて

10月20日は朝から終日、沼津市にある「沼津倶楽部」で3つのシーンを撮る。正式には千本松・沼津倶楽部といって、会員制の宿泊施設と、大正時代に作られた数寄屋造りのサンルームを使ったレストラン「ヴィーア・サクラ」から成る。
まずは、数寄屋造りの奥まった一室で、二人が3年間のソヴェトーロシア(百合子風に言うと)留学から帰った後に訪れた、無惨な別れのシーンを撮影する。

時系列で言えば、映画の舞台である1924年からすると8年後の現実。プロレタリア文学運動に邁進する百合子と、一歩距離を置く芳子に、決定的な別れが待っていた。
レストラン棟は以前高級割烹だったというが、沼津市に住んでいてもなかなか訪れる機会が少ないセレブ用の施設らしい。近代的な宿泊棟も、会員か会員の紹介でなければ泊まることができない。

今回撮影できたのは、沼津市フィルムコミッション「フィルム微助人(びすけっと)」を中心に沼津市沼津商工会議所が展開する「さぁ来い、ハリウッド!大作戦〜ロケでまちが元気になるプロジェクト」(通称“ハリプロ”)の紹介によるもの。
本作が静岡オールロケになったきっかけが、今年2月に行われたハリプロ主催のロケーション・ツアーだった。最終的には、沼津エリアでの撮影はこの沼津倶楽部と活版印刷の文光堂印刷だけとなったが、静岡東部に限らず、ロケ全般にわたって支援を受けた。

この日も、あいにくの雨のなか、ハリプロはテントを張ってお昼の炊き出しをしてくれた。海産物をアレンジした料理がとても美味しく、キャスト、スタッフ、みんなが舌鼓をうった。
レストランで撮影したのは、百合子と芳子がお茶を飲みながら話し合うディシーンとナイトシーン。大正時代の衣装を着たエキストラは、すべてハリプロの手配による。また二人が食べるケーキもハリプロ手配で、市内のケーキ屋さん特製のもの。

せっかく「さぁ来いハリウッド!」と呼びかけているのに、わたしたちのような貧乏撮影隊が行って、たいへん恐縮でした。「フィルム微助人」の皆さんや沼津市役所、商工会議所の方々の熱意と馬力、そして朝から夜遅くまで心置きなく撮影させてくれた沼津倶楽部に、心から感謝します。